【議論】印税を遺族に渡す意向があるのか不明! 神戸連続児童殺傷事件犯人の手記『絶歌』(太田出版)

著者が寄付をしたとしても出版社は寄付しない!?


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神戸連続児童殺傷事件の犯人・元少年Aの手記『絶歌』(太田出版)が昨日発売になり、各所で議論を呼んでいる。Amazonランキングは総合1位となり在庫は完売。初版は10万部のようだ。

・販売差し止めリスク低減
犯人の手記が発売されるのは、これが初めてではない。もっとも近い本は、市橋達也『逮捕されるまで』(幻冬舎)だろうか。販売差し止めのリスクを低減するために、発売当日まで情報を出さないところも一緒である。

・著者と出版社に批判が殺到
『逮捕されるまで』が出版された時も、今回と同様、著者と出版社に批判が殺到した。関係者に聞いた話だが、電話をかけてきて、「お前の会社とは今後一切仕事をしない」と通告した作家もいたそうだ。

・著者が寄付をしたとしても出版社は寄付しない
著者だけでなく、出版社を批判するのは理にかなっている。むしろ、著者以上に批判されていい。なぜなら、出版を決めたのは出版社だし、本が売れれば一番儲かるのも出版社だからだ。

・印税は慈善団体に寄付?
市橋氏のケースは、印税(1000万円超)を遺族に渡す意向だったが、当然のように遺族からは「娘を殺したことをネタに金儲けをしている」と拒否された。拒否された場合は公益にあてられるとのことだったので、おそらく、印税はどこかの慈善団体に寄付されたのだと思われる。

しかし、幻冬舎が得たであろう3000万〜4000万円(遺族のいうところの「娘を殺したことをネタに」して儲けた金だ。諸条件は知らないので金額は一般的な場合)は、寄付されることもなく、普通に利益となっているはずだ。

・印税を遺族に渡す意向があるのかも不明
今回の『絶歌』は、初版の数字と売れ行きから見て(紀伊國屋書店のデータから国内全書店の売れ行きを推測すると、今日=6月11日の午前中だけで約6000冊が売れている)、『逮捕されるまで』よりも大きな利益が出る可能性が高い。しかも、著者が印税をどうする意向なのかが明らかにされていない。太田出版は、意向を聞いてすらいないようだ。

・J-CASTより引用文
「印税を被害者側に支払うのかという疑問も多いが、出版社側は、「意向は聞いていないが、著者が考えるはず」だと説明している」(引用:J-CAST)

・批判を覚悟の上での出版か
太田出版はなかなか本を絶版にしないし、気骨のある版元なのだが、さすがにこの件はどうかと思ってしまう。もちろん、批判を覚悟の上での出版なのだろうが、遺族の立場になると正当性がなさすぎる。

加担したくないので買うつもりはないが、出版業界の末端にいる者として雑感を書かせてもらった。

執筆: 鈴木収春(不明研究室) http://fumeiya.net/

もっと詳しく読む: バズプラスニュース Buzz+ https://buzz-plus.com/article/2015/06/12/sakakibara/

鈴木収春

クラウドブックス株式会社代表取締役。自由大学「伝わる文章学」「出版道場」教授。東京作家大学講師。講談社客員編集者を経て、出版エージェントに。ドミニック・ローホー『シンプルリスト』、タニタ&細川モモ『タニタとつくる美人の習慣』、劔樹人『高校生のブルース』、高畑宗明『腸内酵素力で、ボケもがんも寄りつかない』などを担当。