【現代医学と歴史】スペインかぜの正体は米国発のインフルエンザ! ナゼこんな名称になった?
新型コロナウイルス
【歴史好き女医・馬渕まり先生コラム】
冬期になると毎年のように大流行するインフエンザ。みなさまは予防接種は受けられましたか? この厄介なウイルスは昔から人類を苦しめて参りましたが、今回は20世紀の初頭に起きたパンデミック(世界的流行)のスペインかぜをお送りいたいと思います。
・第一次世界大戦の米進軍でウイルス拡散
スペイン風邪は1918年~1919年にかけて世界中で大流行したインフエンザのことです。この時は、実に世界人口の30%にあたる6億人が病に冒され、4000~5000万人が死亡しました。
ヨーロッパと言えばペストを連想される方も多いかもしれませんが、スペイン風邪はそれよりも多くの死者をヨーロッパをはじめとする世界各国で出しました。実はこのスペイン風邪は1918年3月に米国(デトロイトなど)から始まっております。
それが米軍のヨーロッパ進軍と共に大西洋を渡り、5~6月にヨーロッパで大流行。進軍とは他でもない第一次世界大戦(1914年~1918年)のことです。そして同年秋に流行の第2波が始まり、しかも世界中、ほぼ同時に起こる病原性の強いものでした。
我らが日本にも伝播し、1919年春から秋にかけて起きた第3回目の流行が、最も被害が1番大きくなりました。さて、ここまで一気に説明したところで、『米国発祥なのに何でスペイン風邪?』と思ったアナタ。それは、何とも政治的というか人為的というか、意外な原因が背景にあったのです。
・スペイン発症って、それ何て大人の事情かしら
前述のようにスペイン風邪が流行していた当初は第一次世界大戦中でした。そのため戦争に参加している国では、情報の検閲が行われていました。『いまうちの国ではインフエンザで死者多数』『出兵先でインフエンザ大流行』。こんな情報は士気に大きく関わります。逆に敵国にとっては有利な情報となるだけです。
そのような状況下、大戦に参加していなかったスペインでは報道が自由だったため、このパンデミックの発信源はスペインということになってしまうのです。そのため『スペイン風邪』と呼ばれるようになったんですよ!
・長期化する戦争に歯止めをかけていた!?
オーストリア皇太子の暗殺事件(サラエボ事件)に端を発した第一次世界大戦ですが、当初の予想に反して戦いは長期化しました。長期戦による人的・物的被害は大きく経済も疲弊。1918年に入るとトルコ、オーストリアで革命が発生して帝国が瓦解します。
また、ドイツでも革命が起こり、これを契機に大戦は終結しましたが、第一次世界大戦の戦死者は戦闘員、民間人あわせて約3700万人と言われており、実はこのうちの三分の一はスペイン風邪などの病死です。スペイン風邪による大量の死者が出たことが終戦を早めたという説があるのも頷けますね。
・マッサンのヒロイン・エリーも被害に……
世界中で猛威をふるったスペイン風邪ですが、日本もまた例外ではありませんでした。朝ドラ『マッサン』のヒロイン・エリーも、スペイン風邪にかかるエピソードがありましたね! 日本の内務省統計では日本で約2300万人の患者と約38万人の死亡者が出たと報告されています。野口シカ(野口英世の母)や劇作家の島村抱月、西郷寅太郎(西郷隆盛の息子で軍人)などの著名人も多数命を落としました。
インフエンザの大流行は20世紀に4回ありました。今世紀に入っても2009年に新型インフエンザが現れ世界的に流行。不幸中の幸いで、2009年の新型インフエンザの死亡率は高い国でも0.004%程度に留まりました。これは季節性インフエンザ程度か、それ以下という弱毒性のものであり、現在は季節性インフエンザの1つに分類されています。
ちなみにスペイン風邪の死亡率は2.5%とかなり高い数字です。現在流行しているインフエンザは死亡率が高くありませんがそれでもやはり怖い病気です。マスクや手洗いなどで予防することが大事ですし、スペイン風邪の頃にはなかったインフエンザウイルスの増殖を抑える薬(タミフル、イナビル、リレンザなど)も実用化されていますので適切な受診をすることも大切です。
執筆: 馬渕まり先生(忍者とメガネをこよなく愛する歴女医)
掲載: 武将ジャパン
もっと詳しく読む: スペインかぜの正体は米国発のインフルエンザ! ナゼこんな名称になった?(バズプラス Buzz Plus) https://buzz-plus.com/article/2020/04/18/spanish-flu-and-influenza-virus/